オーストラリアでワインを造る日本人 (瓶詰めお手伝い/おまけ編)

こんにちは、アデレード支店の齋藤 新(あらた)です。

前回、前々回と 「オーストラリアでワインを造る日本人」としてご紹介した、スガ タカヒロ(Takahiro Suga)さんですが、2020年に収穫したシラー(赤ワイン)、カベルネ・ソーヴィニヨン&セミヨン&ソーヴィニヨン・ブランのブレンド(ロゼ)の樽熟成を終え、ビン詰めを行うと連絡があり、その貴重なお時間を体験してきました。

今回は、 「オーストラリアでワインを造る日本人」の 「瓶詰めお手伝い/おまけ編」 です。

オーストラリアでワインを造る日本人(前編)
オーストラリアでワインを造る日本人(後編)

ちなみに作業はもちろんボランティアで、男性は自分1人のお手伝い要員。ハンドクラフト(手作業)で、しっかり手伝ってきた(体験してきた)ので、その様子をご紹介したいと思います。

ワイナリーに集合

アデレードヒルズにある、Kersbrook hill wines and Cider へ 朝8時30分に集合です。

朝ワイナリーの作業倉庫にいくと Kersbrook hill wines のスタッフが新しいボトルにラベリングの作業中。
声をかけ「タカはどこ?」と尋ねると、奥にいるよ〜 ということで、お邪魔して ドンドン中に進んでいきます。

実は以前、2019年のソーヴィニオンブランの瓶詰め時、2020年のリースリングの瓶詰め時にもこちらを訪問しています。

前回は、樽熟成中の 赤ワイン(シラー)に酒石酸を加えるかどうかを「樽熟成後」をイメージして、「樽熟成前」の彼のワインを試飲させてもらっていました(自分にはわからない熟成後の微妙な違い)。
最終的には、やはりナチュラルワインということで No Add(無添加)を貫いたみたいです。 ちなみに加える前の方が好み/美味しいと自分は思ったので間違いない(笑)

まずはシラーから!

上の樽から ↓ 下のタンクへ

シラーは、前日のうちに ”澱引き” をされ大型タンクに移されてました。
ちなみに、シラー(Syrah)はフランス、シラーズ(Shiraz)はオーストラリア、で呼ばれるブドウ品種ですが、ざっくり同じ品種と思って大丈夫です(クローンの話をしだすと大変です)

澱引き(オリ引き)とは?
ワインの醸造工程でワインから澱(オリ)が発生します。そのオリが樽の中に沈殿しているので上澄みだけを別へ移し替える作業を行い、この作業のことを澱引き(スティラージュ)といいます。

タカさんのシラーは、カーボニックシラーです。カーボニック・マセレーションという醸造技術を用いています。より繊細でフレッシュで複雑味の感じられるワイン、という期待感がモリモリで、ナチュラルワインらしいものです。

カーボニックマセレーションとは?
ブドウの果実内に存在する酵素の反応によって引き起こされ実行されるもので、酵母は一切介在しないのが特徴。ワインは フレッシュで渋みが少なくフルーティーだけど、一部の有機酸が分解されているため長期熟成をしたワインのように酸味が穏やか、というものです。より技術的な詳しい説明はいろんなサイトで確認してくださいね。


瓶詰め前は二酸化炭素

ボトルフィラーからワインを注ぎ入れる前に、全てのボトルへ二酸化炭素を注入します。


注ぎ込まれたワインがボトル内の空気(酸素)と触れ、不必要な酸化を防ぐためです。

ボトルフィラーと打栓

タンクからポンプでボトルフィラーと呼ばれる機器に繋がれ、吸い上げられます。フィラーの注ぎ口へ二酸化炭素を注入したボトルを差し込みます。
するとワインが徐々に注ぎ込まれ満タンになると止まります。
こちらは 6本タイプで、ナチュラルワインなどの少量の生産者にとっては一般的だそうです。大きなものになると 14本 くらいを一気に入るのがあるそうですよ。

ボトルフィラーで満タンに入れられたワインボトルに、打栓 します。

打栓は、欧州だとコルクが一般的ですし、オーストラリアではスクリューキャップが主流ですが、タカさんのシラーはクラウン(王冠)で打栓します。
王冠?!ビールかよ!と思われがちですが、ナチュラルワインでは珍しいものではないのです。
それらも造り手の求める「味わい」と「感性」が大事なポイントで決まります。

手作業で1本1本、打栓するのですが、ワインをこぼしたり、一滴さえ無駄に出来ません!

打栓したボトルは綺麗にタオルで拭いてから、これまた12本入るケースに入れて行きます。

シラーは、午前9時くらいから開始して 午後1時くらいに60ケース(720本)ちょうどの瓶詰めと打栓を終えました。

ランチはワイナリーのセラードアで!

ランチは、Kersbrook hill wines and Cider のセラードアで ピザを2枚 をシェアで。Kersbrook hill ではCiderも造っているようで、せっかくなのでボトルを1つ。
これまたピザは美味しいーーー。セラードアでは Kersbrook hill のワインも試飲できるので、ランチを食べながら試飲しても良いですね。あと、CIDERも大変美味しかったです。

午後はロゼ

ランチ休憩を挟んだ後、午後はロゼの瓶詰めと打栓です。
ロゼはステンレスタンクで醸造なので、そのタンクからそのままフィラーへ繋ぎます。


工程は同じく、各ボトルに二酸化炭素を注入後、フィラーにて瓶詰めします。

こちらのロゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン 70%、セミヨン 15%、ソーヴィニオンブラン 15% の3種ブレンドです。
以前、試飲させて頂いた際は、青臭さが際立っていてちょっと苦手かなーと失礼なことを言ってたんですが、今回、少し試飲させてもらったら衝撃的に美味しかったです。ロゼってハッキリしなくて甘ったるいものが多くて、自分は苦手なワインだったのですが、、、これ 15ケース分しか生産してないということなんですが、入手できるなら本当にオススメです。

クリアボトルで、ロゼの綺麗な色が際立って、良いですよね。
打栓はほとんどがクラウンですが、一部だけ、2種類のボトル(ボルドー型とブルゴーニュ形)で、「コルク」にて打栓します。これはタカさんが、ボトルを変えてコルク栓だった場合の味わいの変化を見るためなんだそうですが、コルク栓も完全手作業です!


午後1時30分くらいに開始して午後3時に終了しました。こちらは15ケース(180本)の瓶詰めと打栓を終えましたよ。


瓶詰めは最後のクオリティコントロールでとっても大事

瓶詰め作業は、ワインの品質を保つための最後のクオリティコントロールでとても大切と説明してくれました。
今までずっと樽の中で静かに熟成されてきたワインが、オリ引きのためにタンクに移され空気に触れ、その上でポンプからフィラーへ注がれ、機器とチューブの中を通って、空気と機械に触れ、その上で ボトルの中へ入って行きます。
例えば、ポンプにつながっているチューブの先がタンク内のワインに届いておらず、空焚き状態になったりすると機器が焼き付いたり、チューブのゴム臭が付着したり、フィラーに虫や不純物が混入したりなど、最終工程でのミスは、全てのワインを台無しにしてしまうので、細心の注意を払いつつ、そして確実に早く終えること、が大事とのこと。

ちなみに、大きなワイナリーなどだと、何万本以上の瓶詰めをする、などの場合、1日では終わらないので数日に分けて瓶詰めするのですが、いつ瓶詰めされたワインなのか? が判断できるようにラベルにLOT番号が記載されているのだそうです。例えば、あるワインがリコール対象になった場合、LOT 番号があれば、その番号から何月何日に瓶詰めされた2000本が対象、などと分かるので、リコールの回収も最小限に留められるのだそうです。

お手伝いを終えて

お話をお聞きすると、瓶詰め工程は、実はワインメーカーもあまり好きな人はいないんだそうです。単純作業の繰り返しになるので、ツマラナイ、という人が多いのだそうだ。
しかし、自分はとっては、大変貴重な体験になったとともに、作業工程でのノウハウや、業界裏話などもありつつ、とても楽しい時間でした。むしろ、瓶詰め作業が来年もあるなら、ぜひお手伝いしたいところです。
そして、お手伝いはボランティアですが、お礼にとまだラベルの貼られてない、今回瓶詰めしたワインを4本頂戴しました!
これが目当てだろ!と言われると否定しがたい(笑)ですが、このワインが発売される頃に、楽しみはとっておこうと思います。

おまけ(SO2/亜硫酸塩)

一般的なワインは製造過程で、SO2/亜硫酸塩をワインの酸化防止剤として混入します。この SO2が二日酔いで頭が痛いのを引き起こしたり、具合が悪くなったりの原因とも言われています。
この袋に入っている白い粉がSO2/亜硫酸塩です!!
ちなみにほぼ全世界のワインメイクで SO2/亜硫酸塩 と言えばこのブランドの物が使われるそうです。まず普通に生活してて見ることないですよね。

一般的にSO2/亜硫酸塩を加えるのは、かなり少量ということですが、ちょっと多めに入れたサンプルを嗅がせてもらったところ、とても嗅いでいられる匂いではありませんでした。ただ、ワインの製造過程上、生産者が SO2を入れる入れないにかかわらず、自然的に同じ成分のものがワインの中に本当に微量ですが出来てしまうのだそうです。
なので、ナチュラルワインとして、一切SO2/亜硫酸塩を加えない、としても No Sulphur ではなく、No Add Sulphur が正解なんだそうです。
ただ、Contains Sulphites だとしても厳密に言えば、本当に必要最小限入れる場合もあり、造り手のワインの方向性によるので、一概にContains Sulphitesだから、ナチュラルワインじゃない、とも言えないのだそうす。

自分は、ナチュラルワインもクラシックな伝統的製法のワインも両方とも好きです。ほぼ毎日ボトル1本を1人で空けるほどワイン好きですが、やっぱり飲み過ぎれば、どっちのワインだって頭痛いなーってなります。要は「飲み方」と「思い込み」だとは思います。もちろん思い込みも否定はしませんし、むしろそれでハッピーなら良いことですww

(2020年8月14日早朝 6時のアデレード → シドニー便にて日本に向けて出発されました。)

ちなみにタカさんのワインは完全ナチュラルワイン。一切、何も余計なものは加えてない No Add Sulphur ゴリゴリのナチュラルワイン(笑) ぜひ、オーストラリアで 日本人ワインメーカーが手掛けるナチュラルワイン、興味ある方は騙されたと思って、一度 試してみてください。


Plus Personal Wines のワインは下記ワイン専門店でご購入頂けます。

齋藤 新 / Arata Saito

オーストラリア、アデレード在住。豪政府認定教育エージェントカウンセラー(QEAC登録番号 I009)。1999年、経済連を退社し、ニュージーランドに留学→2000年、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。現地の旅行会社勤務などを経て、2002年より現職。クイーンズランド州、ニューサウスウェルズ州、南オーストラリア州の主要都市を移り住み、現在に至る。語学留学、TAFE専門、大学・大学院留学への留学相談、アデレードオフィスでのサポートと様々な形で留学生と接する日々。このカウンセラーに質問する