私の就職体験記-入社3ヶ月で始末書

留学を考えている方や留学中の方の、「英語を使った仕事って具体的にどんなもの?」といった疑問に少しでもお役に立つことができれば、と思い書き始めた「私の就職体験記」。なんだか、第一回目にして早くも方向性が違ってきているような気もしますが、前回の「私の就職体験記-英語を使ったお仕事」の続編を書かせて頂きます。

何がなにやらわからぬまま始まった、オーストラリア留学後の社会人生活。

まず担当として任されたことは、物流関係。

morning highway
by tedd okano

物流は、簡単に言えば、海外の製造元にオーダーを出して、在庫の管理をして、日本のお客様の工場に納入する、という一連の仕事を管理すること。

でも、特に何も教えられずに、とりあえず「じゃあこれやってね」と渡されて、何がなんだかよくわからないまま物流管理をやり始めた。

そして、見事に失敗をする。

物流を担当して2ヵ月くらいたった頃。

英語を使うといってもメールでオーダーの指示をしたり程度のもので、思ったより英語を使わないなぁ、一番英語使う部署って聞いていたのに、なんてのんきなことを考えていた矢先。事務の女性Oさんから「坂本さん、A部品(製品名をA部品とします)の在庫足りなくなりそうですよ」と言われる。

「はい?何のことでしょう?」と思い、話しを聞くと、A部品が次に入庫するのは2週間後。そして、お客様の生産予定からA部品の在庫数を計算すると、1週間後に在庫が切れてしまう。

「はぁ、どうしたらいいでしょうか?」と間抜けた質問をする私に、Oさんはあきれ顔で「Yさん(私の直の先輩)に聞いてどうするか決めて下さい」とのこと。

Y先輩に「在庫切れになりそうなんですけど、どうしたらいいでしょうか?」と聞くと、Y先輩は顔色を変えて「ばかやろう!」と一喝。正直なぜ怒られたかもわからず、パニックになりおろおろしていると、Y先輩が「そういえば在庫のこと何も教えてなかったな」と苦い顔。

物流担当をして2ヵ月後、失敗をして、初めて物流について教えてもらうことに。

少々マニアックな話しになりますが、お付き合い下さいm(__)m

A部品をお客様の工場に納入する方法は、いわゆるトヨタの「かんばん方式」でした。詳細はググって頂くとして、簡単に言えば、必要な時に必要な分だけ生産する方法です。そして、部品を納入するのも、必要な時に必要な分だけ納入することになります。

在庫を極力少なくできるこの生産方式は、非常に優れた方法なのですが、前の会社では部品を海外から輸入するので、部品の製造期間と輸送期間(リードタイム)がおおよその予測しかできません。また、海外から製品輸送するとき、コンテナ船での運搬が一番コスト効率のよい方法になります。ただ、コンテナ船も天候等に左右されたり、海賊の出現や不足の事態が起こり、予定通りの入港になるとは限りません。そのため、ある程度部品の在庫を持っておき、不足の自体に備えられるようにしていました。

そして、在庫切れはものすごく深刻な事態を招きます。

部品を納入できないということは、工場の生産ラインをストップさせてしまいます。例えば、1時間工場のラインをストップさせてしまうということは、そこで働く従業員の1時間分の給与を無駄にしてしまいます。また、1時間で生産できたであろう、見込み製品数も無駄になります。

さらに、その工場で最終製品の一部の部品を組み立て、違う工場に運び、そこで最終製品を組み上げます。その最終工程も、かんばん方式で納入するため、1時間ラインをストップさせると、最終の工場にも部品を納入できなくなります。つまり、「在庫切れですごめんなさい」では済まず、その工場とさらに最終工場にも迷惑をかけることになります。

ラインを1時間のラインストップさせるどうなるか。

1億円の損害賠償が納入できなかった会社に降りかかってきます。

そのため、物流を管理するには、オーダー数やお客様の生産予測、リードタイム、在庫数等々、色々な要因を綿密に計算して、海外の製造元との調整をしなければなりません。そして、当時の私はそんなことは全くわからず、そして、誰に聞くともなくなんとなくやっていたのでした。

はぁ、説明が長くなりました(+_+)

というわけで、「1時間で1億円の損害賠償!?1週間だと一体いくら!?」と、この時ようやく事の深刻さを知るのでした。

Y先輩は「もうこなったからにはしょうがない、製造元のL社に連絡をして、今L社にあるA部品をあるだけエアーで輸送しろ!」と指示。

「エアーって何ですか!?」

「エアーは空輸だ!飛行機を使え!数百万円の赤字がでるがこの際仕方がない。部長には俺から言っておく!」

「でも、L社は今、夜中で誰もいませんよ!」

「物流担当者にメールを打っておけ!そして、日本時間の夜10時ならL社も始業している。俺はその物流担当の上司に連絡をするから、今日の夜10時からL社と電話会議をセッティングをするぞ!」

そして夜10時、指定された番号に電話をして、電話会議開始。相手は物流担当とその上司、こっちは先輩と自分が参加。もちろん、会話は全て英語。

「坂本君、今の状況を説明してくれ」とY先輩。

「メールしました通り、1週間後に在庫切れになる予想で、至急今あるA部品の数と、発送できる日程を教えて頂けますか?」

会議の細かい内容まで覚えていませんが、しきりに、SorryとCould you~?を使ったことを覚えています。こっちは無茶を承知でイレギュラーなことをお願いする立場。仕事でイレギュラーなことが発生すると、とにかく手間がかかります。L社の二人は、不機嫌な声。

冷や汗たっぷりの電話会議が終わり、一先ずなんとか間に合わせることができそうな目途が立つ。

入社して初めてまともに英語を使って仕事をしたのが、こんな不始末をやらかした時になるとは・・・。

先輩も、「今回はもうしょうがない、だけど、担当任されたからには、ただなんとなくするんじゃなくて、責任もってやってくれよ。そして、わからないことがあれば聞いてくれな」と、安堵の表情。

その日は終電で帰宅し、翌日、無事A部品は出荷されたとのメールが入っており、ほっと一安心。

しかし、悪いことは重なるもので、フライトの遅れがありA部品の到着も遅れてしまう。納入時間に間に合わない!!

「先輩、どうしましょう!?」

「坂本、おまえ、成田(空港)まで部品取りにいけ!!」

「はい!?」

「成田でA部品を直接受け取って、工場へ納入するんだよ!輸送業者に頼んでいたんじゃ間に合わない、すぐ行け!工場のほうには俺から連絡しておく!」

「はい!!」

と、会社の車に飛び乗って成田空港へ。細かいことは省きますが、なんとか納入を間に合わせることができ、事なきを得ました。

ただ、この時に出してしまった赤字が1千万円近く。

上司からもお叱りも受け、入社3ヶ月目にして、始末書を書くはめになりました。。。(=д=)

PhoTones Works #1647
by PhoTones_TAKUMA

自分でもこのシリーズが何回になるのかわからなくなってきましたが、次回はさらに海外とのやりとりに踏み込んだ内容を書こうと思います。

坂本 岳志 / Takeshi Sakamoto

オーストラリアのメルボルン在住。豪政府公認PIER教育カウンセラー(QEAC登録番号:H297)。日本の大学を卒業後、日常英語もままならないレベルから、メルボルン大学大学院進学を決意。卒業後は、日本の商社で海外取引に3年携わる。現職に就いたきっかけは、メルボルン大学と商社時代に感じた「危機感」でした。各国の優秀な人材が海外で経験を積み、どんどん活躍していく中、日本の縮小を実感し、何か自分が役に立つことができるのでは、という思いから留学業界へ転職。東京オフィス→パースオフィス→石川県でリモート勤務を経て、2021年2月よりメルボルンに戻り、主にオーストラリア全都市の大学・大学院進学希望者のカウンセリングとサポートを行っています。このカウンセラーに質問する