サヨナラ、ビザ取り学校。

2025年を迎え、早くも1年の12分の1が過ぎようとしていますが、ここ最近の大きなニュースとして「ビザ取り学校」の終焉が見えたことです。

実際、当社への問い合わせ内容も、ビザ取り学校に関する問い合わせは格段に少なくなり、よりTAFE、大学、大学院進学への質問(お客様のキャリアにつながる質問)が増えてきました。


「ビザ取り学校」とは?


オーストラリアでは、「Ghost College(ゴーストカレッジ)」や「Visa Factory(ビザ工場)」と呼ばれることもありますが、本記事では「ビザ取り学校」で統一します。

「ビザ取り学校」とは、学生ビザの取得を主な目的とする留学生をターゲットにした教育機関のことを指します。

オーストラリアは1990年代以降、経済成長を促進するために留学生の受け入れを積極的に拡大しました。

しかし、その影響で移民法にも変化が生じ、「学生ビザ制度を悪用する教育機関」が増加しました。
本来、学生ビザ(Subclass 500)は、就学を目的とした入国者が申請するビザです。

しかし、「就学」が目的ではなく、主に「就労しながら長期滞在するための手段」として、学生ビザ取得を希望する渡航者が一定数存在します。そのような人々をターゲットに、安易に入学許可を出す教育機関が「ビザ取り学校」と呼ばれる所以です。

「単に滞在したいだけなら、観光ビザでいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、観光ビザでは現地での就労は一切認められていません。

そこで、就労が認められているという学生ビザの条件を逆手に取り、「就労目的」で学生ビザを申請する人が増えてきたのです。

これらの学校には、低い入学基準、安価な学費、緩い授業時間、出席管理の甘さなど、学生ビザの取得や延長を簡単にする特徴がある一方で、様々な問題点も孕んでいます。


ビザ取り学校の主な問題点


長年、ビザ取り学校には、以下のような課題が指摘されていました。

① 教育の質が低い

ビザ取得(滞在)が目的の留学生が申し込んでくればいいので、授業内容は二の次。授業の質が低く、専門的な知識やスキルがほとんど身につかない。

② 学生の学習意欲が低い

学生自身も、学業よりも滞在が目的のため、学ぶ意欲が低い(というよりも、意欲が無い)。そのため、効果的な学習が期待できないですし、何より教師側のモチベーションも維持できないでしょう。

③ 違法行為への加担

一部の学校では、違法な手段でビザを取得させたり、学生に違法就労を斡旋するケースもありました。

④ 労働市場への悪影響

ビザ取り学校の学生は、基本的に長期滞在を目的とし、低賃金・長時間労働をするケースが多く、最低賃金以下の給与で働いている学生も多くいました。

その結果、賃金の低下や正規雇用の減少につながる可能性がありました。

⑤ 学生サポートが不十分

卒業後のキャリアサポートがほとんどなく、誠実な対応をする学校は見つけるのは難しい状況でした。


「ビザ取り学校」に感じていた違和感


多くの留学生をサポートする中で、最も問題だと感じていたのは、「教育の質の低さ」資格名で見極めができないことでした。

たとえば、TAFE Queenslandで、
Diploma of Business/Diploma of Marketing and Communication
を学ぶ場合、以下のような特徴があります。

  • コース期間:1年間
  • 授業料:約16,500ドル
  • 授業日数:週4日
  • 習得スキル:ビジネスの基礎をしっかり学べる
  • QUT(クイーンズランド工科大学)進学時に1年分の単位免除が可能

まさに、大学側も”単位”としても認めることができる、授業内容と言えます。

しかし、一部のビザ取り学校では、以下のような極端に緩い制度になっていました。

  • コース期間:1.5年(あえて1年で学べるカリキュラム内容を引き延ばす)
  • 授業日数:週1日(2〜3時間程度)
  • 学費:年間で約4,000ドル(格安)
  • キャンパスには足を運ぶだけ(スマホ見ながら時間を潰すだけの場合も)
  • オンライン受講が可能な場合も(キャンパスに通う必要なし)
  • 出席率が低くても学校は見て見ぬふり

明らかに違いがあります。特に学費面では大きな違いがあり、ビザ取得を目的とした学校の多くは、低価格で滞在したい学生に支えられ、運営されてきたと言えるでしょう。

ただ、お客様と話す中で感じるのは、TAFEを終えた学生は言葉に自信がみなぎっているのに対し、ビザ取得を目的とした学校を卒業した一部の学生は、就労に重きを置いて学業に力を入れていないためか、どこか自信なさげな様子が見受けられます。

しかし、どちらの学校を卒業した場合でも、得られる資格は同じ「Diploma」です。

実際に身についた知識やスキルには大きな差があるにもかかわらず、履歴書には同じ「Diploma of Business」と記載できてしまうため、資格名だけでは違いを見分けることは困難でした。

もちろん、お客様のキャリアや、実際の授業の質を考慮すると、当社ではビザ取得を目的とした学校を積極的に紹介することはありませんでした。

しかし、オーストラリアに長く滞在したい学生にとって、大きな問題の一つが「予算」です。

予算の都合で、ビザ取得を目的とした学校を選択する学生も少なくなく、以前は私も複雑な思いを抱えて手続きを進めていました。


本格的に動き出した、オーストラリア政府の対策


ですが、こうした状況を受け、オーストラリア政府はビザ取り学校の問題を深刻に受け止め、ここ数年で規制を強化してきました。

主な対策

  • ① 教育機関登録の厳格化(2018年〜) - 質の低い学校の参入を防止
  • ② 学生ビザ申請の厳格化(2023年〜) - 英語力・資金力の証明要件を強化(GTE導入-現在はGSへ)
  • ③ 学生ビザ申請費用の値上げ(2024年〜) - 安易なビザ取得を防止
  • ④ 違法行為の取り締まり強化 - 違法なビザ取得や不正就労の斡旋を厳しく監視
  • ⑤ 学生ビザの労働時間制限 - 2週間で48時間までに制限
  • ⑥ 閉校及び警告発令(2024年8月〜) - 休眠中の150校が閉鎖、140校に警告通知を発行

特に6番は現地でも大きなニュースとして取り上げられ、オーストラリア政府として本格的に動き出したことがハッキリしました。

また、今後は各教育機関の「入学枠数」についても見直しが進めらてています。

これらの対策により、授業内容に注力していなかったビザ取り学校からは生徒や教師が離れていき、また経営基盤のしっかりしていない教育機関は次々と閉鎖されています。2024年の大規模な閉鎖に続き、今年も多くのビザ取り学校が消えていくと予想しています。



当社では「ビザ取り学校」に関するご相談は行っていません


2025年現在、オーストラリア留学センターでは「ビザ取得を目的とした学校」と判断される教育機関へのご相談は承っておりません。

多くのお客様は、海外で新しいことに挑戦したいと考え、オーストラリアを選び、渡航してきます。

しかし、生活していく中で、本来の目的を見失い、「とにかく滞在し続ければ何かが変わる」と考えるようになってしまう方もいらっしゃいます。

残念ながら、それは間違いです。長年多くの留学生を見てきた経験から、断言できます。

ご自身の将来に活かしたいのであれば、将来につながるコースを選び、教育の質が高い学校に通うことが何よりも重要です。

今後、いつ倒産してしまうかわからないような専門学校に申し込むことに、意味を見出すことは難しいですし、仮に、きちんとした教育機関へ入学するために予算が必要なのであれば、日本でしっかりと準備してから渡航しましょう。

今年も、そんなやる気のあるお客様を、一人でも多くサポートしたいと考えています!

林 真生 / Hayashi Masuyo

オーストラリア、ブリスベン在住。豪政府認定教育エージェントカウンセラー(QEAC登録番号 I008)。日本では販売業、IT関連業に携わり、海外といえば旅行でヨーロッパやアメリカを訪れる程度。そんな中、友人のススメもあり、2002年ワーキングホリデーでゴールドコーストへ。右も左もわからない中、留学代理店(現職)のWEBサイト制作をする機会に恵まれ、1年間夢中で専門知識を身につける。その後、勤務先のサポートを得て2006年に永住権を取得。2年後、新オフィス開設に伴いメルボルンに転勤、約7年間をメルボルンで過ごす。しかし、QLD州の暖かさが忘れられず(?)、 2015年7月にQLD州に戻り、現在ブリスベンオフィスの留学カウンセラーとして、全力で留学生のサポートを行っています。このカウンセラーに質問する