オーストラリアの反移民抗議活動

2025年8月31日に"March for Australia"を掲げて、移民の受け入れに対する大規模な抗議活動が各都市で行われました。

このニュースは日本でも取り上げられ、日本のSNSでも拡散されていました。

この動きに白豪主義や国粋主義、ネオナチ等の団体も関係したり、さらに、この抗議活動に抗議をするデモ活動も行われるといった、かなり混沌としており何が起きてもおかしくない状況でした。各都市小競り合いがあったり、けが人や逮捕者が出たりもしたようですが、ニュースを見る限り、幸いにもものすごく過激な行動や暴動といったことは起こらなかったようです。

ニューストピックだけ見ると、オーストラリアは移民排斥に動き出した!といった印象を受けるかもしれず、SNSでも「世界は、反移民に舵を切り始めました」といったコメントを付けているものも見かけました。

日本も移民問題が話題になっているので、注目を浴びやすかったのかもしれませんが、ちょっと冷静にみていきましょう。

まず、オーストラリア政府はこの抗議活動を批判しており、首相も"all Australians, no matter their heritage, have the right to feel safe and welcome in our community"とコメントをしています。

それもそのはず。

オーストラリアは30%が海外生まれで、移民で成り立っている国。医療や教育等の重要分野にも移民が多く働いています。さらに、元をたどればオーストラリアは先住民を迫害してできた国じゃないか!移民反対言っているやつも全員移民だ!といった議論も出てきますが、これは話がややこしくなるのでまた別の機会に(多分)。

そして、今回のMarch for Australiaの背景には、コロナ後のオーストラリアの住宅不足や物価高があり、それが多すぎる移民のせいだ!と政治問題化しています。ただ、実際、住宅不足は移民の影響は限定的との調査レポートも出ていたり、移民と現在の生活状況の関連性を疑問視するものもありますが、移民をスケープゴートにするのは、政治的には民衆に訴えやすい構図だと思います。

個人的には、移民の影響はゼロとは言いませんが、かなり限定的で、これまでのオーストラリアの政策的なものがコロナ禍の混や世界情勢的な背景から顕在化している、といった印象を持っています。

ニュースでは過激な場面が取り上げられがちですが、抗議活動参加者のコメント等を見ていても、一部過激な人たちをのぞき、今の政府の政策に不満を持っており、移民自体に反対しているわけでもなく差別しているわけでもない、といった感じの人も多いです。むやみやたらと「大量の移民」には反対ですが、移民の必要性も理解しており、計画的にうまく移民を受け入れることが重要、との認識です。

それがキャッチフレーズだけ拡散され、日本語でも「世界は反移民だ!」と情報が広がったようです。

私もオーストラリアに住んでいる移民の一人。

色々と考えさせられる出来事でした。

●参考ニュース
「移民大国」豪州 31日に大規模反移民デモ計画 政府は強く批判
March for Australia: how are police and government responding to anti-immigration rally promoted by neo-Nazis?
How the March for Australia anti-immigration rallies and counter-protests unfolded

坂本 岳志 / Takeshi Sakamoto

オーストラリアのメルボルン在住。豪政府公認PIER教育カウンセラー(QEAC登録番号:H297)。日本の大学を卒業後、日常英語もままならないレベルから、メルボルン大学大学院進学を決意。卒業後は、日本の商社で海外取引に3年携わる。現職に就いたきっかけは、メルボルン大学と商社時代に感じた「危機感」でした。各国の優秀な人材が海外で経験を積み、どんどん活躍していく中、日本の縮小を実感し、何か自分が役に立つことができるのでは、という思いから留学業界へ転職。東京オフィス→パースオフィス→石川県でリモート勤務を経て、2021年2月よりメルボルンに戻り、主にオーストラリア全都市の大学・大学院進学希望者のカウンセリングとサポートを行っています。このカウンセラーに質問する