私の就職体験記-品質問題に悩む

突然ですが、商社という仕事に、どんなイメージをお持ちですか?オフィス街を颯爽と歩き、ばりばり仕事をこなす、かっこいいイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?

合コンで「商社マン」と言えば、あまり深く突っ込まれずに「へ~」ってなります(笑)

Buildings in Downtown LA
by ricardodiaz11

金融商材や投資案件が多ければ、そういったイメージ通りかもしれませんが、実際はもっと現場で色々とやったりすることも多くあります。

さて、英語を使ったお仕事とはどんなもの?ということで留学後の私自身の就職体験をもとに書き始めた、「私の就職体験記」。

第1回は、「私の就職体験記-英語を使ったお仕事」
第2回は、「私の就職体験記-入社3ヵ月で始末書」

そして、第3回目は現場に入り込む「品質問題」。

「品質問題」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、品質問題は、製品規格(スペック)と違うものが納品された時に発生します。スペックと違う製品は「不具合品」として弾かれ、お客様からお叱りを受けます。

パソコンを買って電源が入らなければ、明らかに不具合品。
ラーメンを買ったのに、中身がうどんだったら、大問題。

製品製品に細かいスペックが決められており、例えば、ある製品の縦の長さは、10cm +/- 3mmといったように指定があります。+/-3mmとは、「交差」といい、規格は10cmだけど、+/-3mmの範囲ならOKという意味です。ですので、縦の長さはこの交差の範囲内、9.7cm~10.3cmの長さでしたらこの製品はスペック内でOKとなります。

さて、説明が長くなりましたが、品質問題とはこんな感じです。そして、私が入社早々に物流と同時に任されていたのが、品質関係。

ある日のこと、お客様から一本の電話が。

「オタクから納入されたM部品(仮にM部品としておきます)だけどさ、不具合なんだよね。」

「それは申し訳ございません」と一先ず謝る私。

「申し訳御座いませんじゃないよ、すぐに来て、全数検査してよ!!」と一方的に電話が切られる。

「へ?」と思いつつ、品質関係担当のF先輩に、こんな電話がありました、と報告。

M先輩は「あちゃ~」といった顔をして、「工場に行くぞ!」と、外出の支度をしだす。私はよくわからず、「ん?今からですか?」と聞くと「当り前だ!工場で組み立てられる前の部品に不具合がないか、全部検査するんだ!!」と怒られる。

JAL 機体整備工場 見学会2011
by motomocomo19

一先ずF先輩と工場に直行。

そして、不快感を露にした工場の担当の方とご対面。「困るんだよね、これ、交差+/-3mmなのに、5mmも長くなってるでしょ!!すぐに工場の分全部検査して。はい、これ、工場の中は帽子着用だから」と帽子を渡される。

なんだ2mmくらい、と当時の私は思っていましたが、製品の設計はミリよりも小さい計算に基づいて設計されており、少しの狂いが、製品全部に影響してしまうのです。

そして、工場にスーツ姿に帽子、軍手姿の男が二人。
明らかに浮いた存在。

油だらけの組み立てラインの横で、定規を片手にM部品の検査を行う。3mmか4mmか微妙なラインのところは、ペンチややすりでちょっと加工をして、交差内に確実に入るようにする。こんなことするのは、やすりを使うなんて高校の授業以来。F先輩に「坂本君、手際悪いなぁ」なんて言われたりo(-_-;*)

「イメージしていた商社マンとは違うなぁ~」と思いつつ、せっせと作業を行う。

かんばん納品(については入社3ヵ月で始末書ご参照)なので、工場で検査しなければならない数はそれほど多くはない。だけど、倉庫にはM部品の在庫が1万単位である。

「・・・もしかして、倉庫の在庫も全部検査ですか?」と聞くと、F先輩は「当り前だ、また同じ不具合品が出ると面倒なことになるから、ここが終わったら倉庫へ行くぞ!」

「まじか~~~(´д`)」と思いつつ、工場の後は倉庫へ直行し検査。これだけで、軽く1日、、、どこから数日はつぶれてしまう。商社時代中、こういった検査作業で、Yシャツとネクタイを何本だめにしてしまったか・・・。

品質問題は、検査をして終わりではありません。

なぜこういった不具合が発生したのか、そして再発させないためにどういった対策をとるのか、といった報告書を出して、お客様からその報告書の内容にOKを頂くまで検査を続けることになります。

一通り検査を終えた後は、某国の製造元へクレーム。私はその国の言葉は話せないので、もちろんやりとりは英語。

一先ず、こんな不具合が出て、原因と対策を求められている、と現地品質担当W氏にレポート。そうすると、数日内に「We apologize~」と不具合出してごめん、これが原因と対策ですと、連絡が来た。

W氏からの報告書によると、オペレーターがM部品をつくる金型(部品を製造する機会)の設定を間違えてしまい不具合が発生した。それは一時的なもので、今はオペレータートレーニングと、金型設定手順書を変更したので問題ない、とのこと。

「これでお客様のところに報告書つくっていいですか?」とF先輩に見せると、「坂本君、もうちょっと考えてくれよ。それじゃあお客様は納得しないよ。金型の設定が問題なら、倉庫にあった1万の在庫のほとんど全部が不具合品になるよ。」とあきれ顔。

「ああ、そういうものか」と思い、F先輩の言葉をそのままW氏に伝える。

でも、W氏の回答は同じで、金型設定が問題だった、としか返事が来ない。

F先輩に伝えると、「だ~か~ら~、もうちょっと考えて仕事してくれよ。仮に金型の設定だとしたら、どういった設定だったのか、また、作業手順書をどんな風に変更したのか、変更したという証拠と一緒に出すよう話をしてみなよ。」とため息をつかれる。

そんなこと言われても、ド文系の私が金型がどうとか、作業手順がどうとか言われてもわからんわ!!とおもいつつ 、W氏にメールを送信。そして、ぴたりと返事がなくなってしまった。。。

お客様からは「どうなってんの、原因と対策書はまだ?」と催促の電話がかかってくる。その度に、苦しい言い訳をする。そして、ため息をつかれ怒られる。

F先輩から、「ほら、やっぱり金型の設定じゃなかったんだよ。メールでは拉致があかない、W氏と電話会議だ。」と救いの手が差し伸べられれ、W氏に電話会議を要請。でも、返信がない。しょうがないので、部長から現地の品質マネジャーに連絡。そしてようやくW氏と電話会議をすることができた。

お客様にも責められて、私は最初から「どうしてくれんの!?」と強気で責める。
W氏、かなり不機嫌な様子で明確なレスポンスがない。

見かねたF先輩が「坂本君、そんなんじゃ話はいつまでたっても平行線だよ。」と建設的に話をまとめてくれ、ようやく会議が落ち着く。

結果として、金型の設定ではなく別のところに問題があったことが判明。W氏は、最初にあまり調べずに金型の設定と言ってしまい、メンツにも関わってしまうので引くに引けなくなってしまった様子。

しかも、お互い英語が母国語ではない同士。そんなつもりはなかったのだが、私の伝え方や英語にもカチンと来たようで、W氏ご立腹。それで、さらに収拾がつかなくなるという悪循環。

Departure
by Yuya Tamai

国が異なると、仕事の仕方や考え方の前提条件が異なるので、そのことも踏まえて仕事をしていかないと、上手くいかなくなるケースも多くあります。さらにそこで、母国語ではない言語でやりとりをするので、ちょっとしたことで誤解を招いてしまいます。

今は、カナダで働くパキスタン人、ドイツで働く中国人、中国で働くアメリカ人、アメリカで働くベルギー人、といったように、その国の会社で働く人が、必ずしもその国の人とは限りません。ですので、英語を使って海外と仕事を、と考えている方は、英語圏だけではなく、母国語が英語ではない人たちと接する機会を多く持つことをお勧めします!

そんなことを痛感した品質問題でした。

坂本 岳志 / Takeshi Sakamoto

オーストラリアのメルボルン在住。豪政府公認PIER教育カウンセラー(QEAC登録番号:H297)。日本の大学を卒業後、日常英語もままならないレベルから、メルボルン大学大学院進学を決意。卒業後は、日本の商社で海外取引に3年携わる。現職に就いたきっかけは、メルボルン大学と商社時代に感じた「危機感」でした。各国の優秀な人材が海外で経験を積み、どんどん活躍していく中、日本の縮小を実感し、何か自分が役に立つことができるのでは、という思いから留学業界へ転職。東京オフィス→パースオフィス→石川県でリモート勤務を経て、2021年2月よりメルボルンに戻り、主にオーストラリア全都市の大学・大学院進学希望者のカウンセリングとサポートを行っています。このカウンセラーに質問する