オーストラリアで暮らしていると、日本の日常では考えられないような自然の驚きに遭遇することがあります。今朝、玄関のドアを開けようとしたら・・・なんとスクリーンドア(網戸)の周りにたくさんの蛾がびっしりくっついていました。写真はその一部分だけ撮影したものですが、スクリーンドアの周りを囲むように大量に張り付いており、思わず変な声が出ました。
実はこれ、オーストラリアでは春から初夏にかけて風物詩とも言える「ボゴンモス(Bogong Moth / 学名: Agrotis infusa)」の長距離渡りの現象なんです。少し前からNSWでは大量移動がニュースになっていましたが、私の住むメルボルンにもどんどん押し寄せているようです。
ボゴンモス(Bogong Moth)ってどんな虫?
ボゴンモスは、オーストラリア南東部に生息する小型〜中型の蛾です。
●体長・特徴
羽を広げると約4〜5cmほど。ダークブラウンの羽に、円形と腎臓(キドニー)型の独特なスポット模様があるのが特徴です。
●人間の害は?
毒はなく、人を刺したり噛んだりすることはありません。衣服を食べることもないため、害虫というよりは「季節の訪問者」です。
生態系に重要なボゴンモス
実は、このボゴンモスは「絶滅危惧種(Endangered)」に指定されており、オーストラリアの生態系において非常に重要な役割を担っています。一見地味なボゴンモスですが、オーストラリア南東部(ビクトリア州やニューサウスウェールズ州の高山地帯)の生態系においては「生命のバトンをつなぐ超重要な存在」です。
1. 絶滅危惧種「マウンテン・ピグミー・ポッサム」の主食
オーストラリアの高山地帯だけに生息する体長わずか10cmほどの小さな有袋類「マウンテン・ピグミー・ポッサム(Mountain Pygmy-possum)」は、冬眠から目覚めた春先、飛来してきたボゴンモスを主な栄養源(タンパク質・脂質)として食べます。ボゴンモスの数が減ると、このポッサムたちも餓死してしまうほど密接に繋がっています。
2. 様々な野生動物の貴重な栄養源
ポッサムだけでなく、高山地に生息する鳥類、コウモリ、トカゲなどの爬虫類、他の昆虫にとっても、1,000km以上渡ってきたボゴンモスは高カロリーで貴重な栄養源となります。
実際、玄関からボゴンモスを追い払っていたら、鳥が素早く飛んできて、ボゴンモスをパクリと咥えていきました。
3. 栄養素の輸送者(栄養の循環)
内陸部で育ったボゴンモスの体に蓄えられた脂質やタンパク質は、彼らが高山地帯で消費・捕食されることで、貧栄養な高山の土壌や生態系へと還元されます。まさに「自然界の栄養素のトラック」のような役割を果たしているのです。
そして、アボリジナルの人々にとっても、貴重な栄養源となる伝統食(ブッシュ・タッカー)でした。プロテイン(タンパク質)はもちろんのこと、それ以上に豊富な脂質を含むスーパーフードとして珍重されていたようです。
地域の環境保全にも繋がる「Moth Tracker」
オーストラリアでは、ボゴンモスの保護活動が盛んに行われています。近年、干ばつや都市の光害によってボゴンモスの数が一時的に激減し、それを主食とする野生動物「マウンテン・ピグミー・ポッサム(絶滅危惧種)」の生息にも影響が出ました。ビクトリア州の環境プロジェクトMoth TrackerやZoos Victoria(動物園協会)では、市民がボゴンモスの目撃情報を写真付きで投稿し、保護調査に協力する「シチズン・サイエンス(市民科学)」の取り組みが行われています。
もし自宅の玄関で見かけたら、写真を撮って「Moth Tracker」に投稿してみるのも、オーストラリアならではの貴重な環境保全体験になります!
・・・といいつつ、実際大量に見かけると、ぞわっとしますし、家の中には入ってきて欲しくないもの。もし邪魔な位置にいる場合は、柔らかいブラシや紙で優しく外の木や草むらに移してあげましょう。