日本の教育が変わる2/3~アクティブラーニング~

前回は、私自身の問題意識から、「アクティブラーニング」に興味を持つ過程を書かせて頂いた。
(『日本の教育が変わる1/3~「考える力」~』ご参照)

今回は、都内高校の教員をされているHさんのお話を参考に、「アクティブラーニング」の内容を紹介する。

Heiwa elementary school 平和小学校 _14
by ajari

アクティブラーニングの着想は、実は、新しいものではない。

今から100年前、兵庫県の教員であった及川平治先生(1875-1939年)が、以下のように述べていることを、Hさんから教えて頂いた。

「もっと健全なる活動的な国民をつくりたい。そのためには現行教育のように『われの教えるだけ記憶せよ』と強要するような静的教育ではいけない。児童を発動的態度に出でしむる動的教育に改めねばならぬ。」

さらに、生徒の一人一人の違いを無視して、画一的な教育を方法を行う。その一方で「個性発展を云々するには矛盾もはなはだしいというべきである。」

Hさんから見せて頂いた、及川先生の文章を拝見して驚いた。

100年前の教育も今の教育も、実はそれほど変わっていないことが伺えるからだ。

Hさんも「100年前にあった考え方がまだ実践されていないことに申し訳なさを感じる」と述べていた。

静的教育から動的教育への転換、まさにアクティブラーニングの目指す方向性である。そして、アクティブラーニングのエッセンスが及川先生のこの文章に詰まっていると言えるのではないだろうか。

「真理を与えんよりはむしろ真理の探求を与えよ、知能を授けんよりはむしろ研究法を授けよ。」

さらに、アクティブラーニングの授業スタイルとしては、アクティブラーニングという言葉がなかった時代の及川先生が、明確に述べている。

「教師は、児童の学習動機を刺激して常に動的態度にいでしむること。尋常五学年以上にありては児童の質問七分、教師の発問三分位にてズンズン進行すること。」

教員は、生徒に知識を覚え込ませることが役割ではない。

生徒の知的探究心を刺激して、一緒に真理の探究をしていくサポーター、あるいは真理へと導くガイドとしての役割が、教員には必要である。

こういった問題意識が、すでに100年前にはあったのだ。

それから100年経った現代、物理の教員である、小林昭文先生という方が、アクティブラーニングの実践者として活躍されている。

授業の進め方としてはこのようになる。

本日やることの説明(15分)⇒生徒同士でのグループ演習(35分)⇒本日やったことの確認テスト(15分)。結果「この授業は好評、寝る生徒は皆無、成績も向上、物理選択者は三年間で三倍増」となる。

これだけ見ても、なぜこのような結果が出たのか「?」となると思うが、スペースの関係上詳細は割愛する。ポイントは、授業に関して基本的なルールを設けるが、基本的に生徒の自主性に任せるスタイルを取っていることである。生徒同士の問題演習時間も、グループはつくるが、毎回同じグループである必要はない。席は自由、移動、立ち歩きもOK、といったような寛容的なルールだ。

アクティブラーニングは、学習定着率を示すラーニング・ピラミッドからも効果的であることがわかる。

項目定着率
聞いたと時5%
見た時10%
聞いて見た時20%
話し合った時40%
体験した時80%
人に教えた時90%

話を聞くだけでは、ほとんど記憶に残らない。一方で、誰かと話し合う、何かを体験する、そして、人に教える、といったことを通じると、学習定着率は非常に高くなる。小林先生の授業では、聞いて見て、話し合い、人に教える、そして、自分で取り組み体験する、といった好循環が生まれていると考えられる。

しかし、生徒の自発性に任せる、というのは非常に勇気のいることだと思う。上手くいかなかったらどうしよう、収集つかなくなったらどうしよう、という不安はどうしても付きまとう。

ただ、Hさんは「そうやって教員は変化を怖がり、同じスタイルの授業を続けている。それでは何も変わらない」と言う。

実際、小林先生が、アクティブラーニングを授業に取り入れ出したのは55歳の時。もちろん、いきなりの変化では生徒もとまどうので、「先生のトライアルに3回付き合って」というお願いの形で開始した。生徒からも最初はとまどいの声があがったが、3回だけなら、としぶしぶ了承したそうだ。そして、生徒との対話を通じて授業を積極的に改善して行くうちに、生徒のほうから声が上がるようになってきた。

Hさんはこのように述べる。

「生徒は大きな力を秘めている。そして、一人一人個性も異なる。それを引き出すためには、先生は『伝える』だけの存在から、『学習者に寄り添う導き手』になる必要がある」

アクティブラーニングは、教育現場の話であるが、何も学校に限ったことではない。ビジネス・ミーティングや留学の現場等でも、十分に応用のできる考え方であると思う。

「最近の若者は・・・」と言う前に、若者が力を発揮できる環境づくりが必要なのかもしれない。

次回は、「今後への期待」と題して、アクティブラーニングと今後の可能性について考えていく。

なお、今回ご紹介させて頂いた小林昭文先生のブログもあるので、こちら「授業研究AL&AL」もご参照頂きたい。

坂本 岳志 / Takeshi Sakamoto

オーストラリアのメルボルン在住。豪政府公認PIER教育カウンセラー(QEAC登録番号:H297)。日本の大学を卒業後、日常英語もままならないレベルから、メルボルン大学大学院進学を決意。卒業後は、日本の商社で海外取引に3年携わる。現職に就いたきっかけは、メルボルン大学と商社時代に感じた「危機感」でした。各国の優秀な人材が海外で経験を積み、どんどん活躍していく中、日本の縮小を実感し、何か自分が役に立つことができるのでは、という思いから留学業界へ転職。東京オフィス→パースオフィス→石川県でリモート勤務を経て、2021年2月よりメルボルンに戻り、主にオーストラリア全都市の大学・大学院進学希望者のカウンセリングとサポートを行っています。このカウンセラーに質問する